「失われた時を求めて」第1篇「スワン家のほうへ」を読む

「失われた時を求めて」の第1篇「スワン家のほうへ」を読む愉しみはどこにあるのだろうか。第一部の田舎町コンブレや第三部のパリの平凡とも見える日常の描写にも魅力は潜んでいる。その生活描写には実は主人公を創造行為へと誘い導いてゆく力が底流となっ…

街を歩く フィレンツェを有元利夫と

ローマやヴェネチアよりも、私はフィレンツェの町を歩くのが好きだ。ローマには、ローマ帝国の威容を誇る巨大な建造物が多いし、遺跡群も規模が大きい。そのためか生活の匂いがするようなおもしろい街角や広場を見つけることがややむづかしい。哲学者ベンヤ…

(2/2) 「銀河鉄道の夜」続篇創作 「(十、)銀河ふたたび」

カムパネルラはきっと銀河のほとりで生きているのです。カムパネルラはいつもそうして少し遠くから振り返るようにしてジョバンニを導いてきたし、何かとジョバンニのことを気遣ってくれたのです。カムパネルラの友情に報いなくてはなりません。 ジョバンニは…

(1/2)なぜ「銀河鉄道の夜」の続篇「銀河ふたたび」を創作するのか

www.youtube.com 「銀河鉄道の夜」は、作者宮沢賢治が亡くなる1933年(昭和8年)までの10年間、繰り返し書き直されました。現在残されている最終稿にしてもそれは決定稿ではなく、賢治が生きていれば、その後にも加筆や訂正が行われたはずの未定稿と考えられ…

絶品 鴨とクレソンの山椒鍋

www.youtube.com コロナ禍もピークを越え、店にも客足が戻り始めた4月、中軽井沢の村民食堂に行きました。村民食堂入り口の季節限定ランチ・メニューに、目が釘付けになりました。そこには、「鴨とクレソンの山椒鍋」というメニューが大きく書かれています…

私の好きな俳句 加藤楸邨と芭蕉

私は加藤楸邨の俳句に惹かれる。表現される世界は多様で多彩で、俳句特有の俳味に溢れる句も少なくない。 くすぐつたいぞ円空仏に子猫の手 「吹越」 円空が彫った精神性に富む仏に、子猫の手がじゃれている。親しみを含んだ笑いが広がるが、謹厳な仏が、「く…

プルーストの文はなぜ長いのか

『失われた時を求めて』の文体は長い。平均的な文の長さの二倍にもなることもしばしばだ。冒頭のまどろみや、それに続く小さな田舎町コンブレの描写においても、使われる表現はむしろ平明なまま静かにゆったりと文章が繰り広げられてゆく。難解な語彙や美辞…

戦時下のフランスに島崎藤村が見たもの

小説家島崎藤村(1872−1943)は、第一次世界大戦前後の混沌としたフランスに3年間滞在する。藤村はすでに『家』などの自伝作家として評価を得ていた。社会の偏見に苦しみつつ目覚めてゆく個人の内面を凝視する求道的作風で知られていた。しかし、「家…

ディープなフランス

1972年にフランス政府給費留学生試験なるものを受けたら、運よく合格。26歳の時にパリの高等師範学校(エコールノルマルシューペリウール)とパリ第四大学大学院に在籍することになった。印象派の美術館オランジュリやルーブル美術館にしばしば歩いて通…

『失われた時を求めて』 もうひとつの愛

この長編小説では当初主役として舞台前面で照明を浴びて目立っていたものが、読み進むにつれやがて少しずつその存在を希薄にしてゆきます。反対にそうした全般的な流れに逆らうようにして、それまで目立たなかった脇役たちが舞台の袖から登場してきます。長…

酉の市の招福熊手、パン生地、土鍋

www.youtube.com 神社で開かれていた酉の市に行ってきました。以前にもまして賑わっていて、招福熊手もよく売れていました。商談成立後の威勢のいい三本締めの掛け声が小雨模様の露店のあちこちからはじけました。手締めによって売り手は活気溢れるパワーを…

甦る山荘風別荘

www.youtube.com 山荘風の旧別荘を、久しぶりに訪ねてみた。近親者が所有していた縁で、三十年以上毎年夏になると家族でその別荘に通った。しかし、九十年も前に建てられた木造の別荘は、骨組みこそしっかりしたものではあったが、軽井沢特有の湿気にやられ…

創作 「火の鳥」

www.youtube.com 東京からようやくキャンプ場に着く。友人Kの小さなワンボックスカーのカーナビが不調で、長野県に入ったあたりか、ディスプレイのマップが突然真っ白になる。道案内の標識を誤読して大回りする羽目になり、夕方遅くになってやっとテントにた…

堀辰雄『風立ちぬ』に誤訳はあるか

大野晋・丸谷才一『日本語で一番大事なもの』の中で、丸谷才一は堀辰雄の小説『風立ちぬ』(1938)を取り上げて、言います、「巻頭にヴァレリーの ”Le vent se lève, il faut tenter de vivre.”という詩が引いてあります。それが開巻しばらくしたところ…

ちょっと一息

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イサム・ノグチ 幻の傑作

広島原爆死没者慰霊碑案 毎年8月6日になると、広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑がテレビに映し出される。それを見るたびに、もうひとつの忘れ去られた慰霊碑案がわたしの目に浮かんでくる。実現されなかったイサム・ノグチの原爆死没者慰霊碑案(1952)…

<小林雅子展 ― 今日の本棚・後編>を観る

上の写真は左から、 展示会案内状、作品「風と共に去りぬ」、作品「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 小林雅子さんの作品 ― アート作品と呼ぶべきか― の一部は当ブログのタイトルバックとして掲載させて頂いています。 6月のとある日、小林雅子さんの…

マルセル・プルースト『失われた時を求めて』を通読する

オルフェウスの歌 牛場暁夫 《マルセル・プルースト『失われた時を求めて』通読のための道しるべ》 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』を読みはじめたが、あまりの長さに最後まで読み切ることができなかった、迷路にまぎれこんだようになった ― こ…